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「アンダーテイカーより戦

by 엘리후 2021. 7. 1.

見やってシンは一つ たん 嘆 そく 息した。 たど 辿り つ 着いたこの国でも、戦争の形は変わらない。機械 じ 仕 か 掛けの ぼう 亡 れい 霊の軍勢に、人は あつ 圧 とう 倒され、 とざ 鎖されて の 吞み こ 込まれようとしている。 あ ま た 数多の仲間達が消えていった戦野のその果てで、同じ戦争が く 繰り ひろ 広げられているとは──その同じ戦争を再び戦うことになるとは、思 ってもみなかった。 特別 てい 偵 さつ 察という名の決死行を進んでいた、 あの頃は。 章 パンツァー・リート 特別 てい 偵 さつ 察は思いの外に へい 平 おん 穏で、 かく 覚 ご 悟していた日数以上を進むこと ができた。 相対していた部隊を初日に かい 壊 めつ 滅させていたのも良かったのだろ う。 コンテスト・エリア 競合区域を ぬ 抜けてしまえば、むしろそこはレギオンにとっ ては完全な自分達の支配域内、 しよう 哨 かい 戒の ひん 頻 ど 度も高くない。シンの異能 でレギオン達の位置と移動方向を は 把 あく 握して そう 遭 ぐう 遇を かい 回 ひ 避する進路を 選び、あるいは せん 潜 ぷく 伏してやり過ごして、できる限り せん 戦 とう 闘を さ 避けつつ 彼らは東へ進み続けた。 本格的な秋になりゆく季節の野営、無味 かん 乾 そう 燥な合成食ばかりの、 いつ果てるともしれぬ敵勢力下の行軍だったけれど。それは彼らに とってはようやく手に入れた、初めての自由な旅路だった。 レギオン支配域にもかつて人は暮らし、無人とはいえ街も村もま だ残っている。機会があればそれら はい 廃 きよ 墟を たん 探 さく 索し、野生化した か 家 ちく 畜 を か 狩り。可能な じよう 状 きよう 況なら野営の夜には たき 焚 び 火を囲んで、進むにつれ変 ふ わりゆく街村の ふう 風 ぞく 俗や、今はもう だれ 誰にも知られぬ自然の絶景を楽し みながら。 やがて秋の気配も深まり、行き過ぎる はい 廃 きよ 墟の標識から共和国の地 名が一つもなくなり、代わりに てい 帝 こく 国のそればかりが目につくように なってきた頃。 その場所に、彼らは行き着いた。 「ファイド」 「お前が、おれ達がここに行き着いた あかし 証だ。── く 朽ち は 果てるまでその 任を全うしろ」 横腹に ほう 砲 げき 撃を く 喰らい、永遠に ちん 沈 もく 黙したファイドの かたわ 傍らで、 かた 片 ひざ 膝を ついていたシンはゆっくりと立ち上がる。 最後に与えた命令は、 こわ 壊れゆくスカベンジャーに届いたのだろ うか。そこに込めた意図を、── そ 粗 まつ 末な処理能力しか持たないゴミ拾 い機は理解できたのだろうか。 ふ 振り かえ 返ると、ライデンが もど 戻ってきていた。 「いいのか?」 少し考えて、何のことか気づく。死んだ仲間達の名を刻んだアル ミの墓標。 兄のそれも ふく 含めた五七六枚全て、ファイドとジャガーノートの ざん 残 がい 骸を集めたここに置いていくと決めたのはつい先ほどの 「ああ。こうなった以上、おれ達もそう長くは進めないだろうし」 かろ 辛うじてファイド以外の全員が生きのびたものの、つい先程の せん 戦 とう 闘でジャガーノートはアンダーテイカー以外の全機を失ってし まった。残る武器は一応の自衛用の小火器しかない今、強大を きわ 極め るレギオンと戦う力は も 最 はや 早無い。 次に せん 戦 とう 闘になった時が、本当に さい 最 ご 期だろう。 それと知って、けれどシンは あわ 淡く笑った。 こん、と手の こう 甲で や 焼け こ 焦げたファイドのコンテナを たた 叩く。 「この程度はこいつに むく 報いてやりたい。……こいつはもう、連れて 行ってはやれないから」 死者の形見の そう 装 こう 甲 へん 片を ひ 引き は 剝ぐ忠実な スカベンジャー 死肉漁りが、いなくなって しまったから。 ふん、とライデンもまた うす 薄く笑う。 いま 今 さら 更だ。彼らにとっては。 眼前に せま 迫る自らの終わりなど。 「楽しいハイキングも、いよいよ終わりか」 息をつき、ふっと笑みを消して西を──これまで過ぎてきた背後を 見やった。 秋も深まり、 さ 冴えた青空の下に一面の かれ 枯 いろ 色が広がる戦野。 わた 渡る風 にわずかばかり咲き残った花の黄色い はな 花 びら 弁が ま 舞い、少し前から へい 並 そう 走 する形になっている、黒々と か な た 彼方まで伸びる複々線の八本の レ ー ル 軌条が 少し皮肉だ。この無人の平原に残された、かつての人々の交流の な 名 ごり 残。 「しかし、とんでもねえ 「……ああ」 何とか通り抜けることができたレギオン支配域最深部は、かつ てその なげ 嘆きの声から推察したとおり、 ぼう 膨 だい 大な数のレギオンがひし めいていた。 み 見 わた 渡す限りの草原に鉄色のモザイクのように すき 隙 ま 間なく し 敷き つ 詰めら れた、待機状態の レ ー ヴ ェ 戦車型と ディノザウリア 重戦車型の群。一対の激流の大河のよう に前線と後方を休みなく行き来する タウゼントフュスラー 回収輸送型の隊列。 はね 翅を休める アインタークスフリーゲ 阻電攪乱型の群が た 立ち が 枯れた森を銀色の樹氷のように おお 覆い、ある時 まよ 迷い こ 込んだのは鉱物資源を さい 採 くつ 掘したものか、 き 切り くず 崩された山の ざん 残 し 滓 とクレーターのように ほ 掘り かえ 返されて一面赤く かわ 乾いた大地の、この世 の終わりのような風景。 おそらくあれが ヴ 自 ァ 動 イ 工 ゼ 場 ル 型や ア ト ミ ラ ル 発電プラント型だろう、あまりの巨 大さに全体像もつかめない かい 怪 ぶつ 物が、 こ 濃い あさ 朝 ぎり 霧の中を は 這いずる様も見 た。周辺一帯を移動するレギオンの大軍勢が う 埋め つ 尽くし、時に冷 たい雨の中、何日も せん 潜 ぷく 伏を強いられたことも。 あれほどの機械の ぼう 亡 れい 霊の軍勢に── こう 抗する術などあるはずもない。 この戦争は、共和国が敗ける。 あるいは人類そのものが。 ──いつか、この場所まで。……彼女 ﹅ ﹅ が辿りつく日は来るのだろう か……。 き 切り はな 離した最後の追加コンテナに無事だった物資を積み込んで、 アンダーテイカーに けん 牽 いん 引させるべく無理矢理ワイヤーとウィンチ で つな 繫いでいたアンジュが もど 「二人とも、こっちの作業は終わったからそろそろ行きましょ。あ んまり遅くなると、 せん 戦 とう 闘の音を検知した他のレギオンが来るわ」 目を向ければ、同じく接続作業を行っていたクレナとセオが、そ れぞれアンダーテイカーとコンテナから飛び降りたところだ。 ここからは、交代でアンダーテイカーを操縦しながら進むこと になる。もしレギオンに行きあった場合はその時操縦している やつ 奴 が戦い、他の やつ 奴は足手まといにならないよう に 逃げる、と、さっき話 し合って全員で決めた。 一つ伸びをして、そのまま頭の後ろで両手を組んだセオが口の はし 端 を下げる。 「それにしても、よりにもよってシンのジャガーノートか あ……。シンのパラメータ設定って操作系がやたら びん 敏 かん 感で正直 こわ 怖い んだよね。リミッターもあちこち こわ 壊してあるし」 アンダーテイカーがジャガーノートには本来不可能な機動さえ 行えるのはそれが理由だ。無論、シンの操縦技術が〝号持ち〟の中 でもとび ぬ 抜けているから可能なことだが。 みよう 妙にうきうきとクレナが手を上げる。 「じゃ、最初はあたし乗るよ。さっき最初にやられちゃったし、疲 れてないから」 生き残ったとはいえもう長いこと専門の整備のされていないア ンダーテイカーも大分ガタがきていて、不 に危なっかしくクレナは機体を立ち上がらせ、それに けん 牽 いん 引されたコ ンテナの上でシンはふと、再び背後に意識を向けた。 ずい 随 ぶん 分前から、ついてきているレギオンがいる。 な 何 ぜ 故か しゆう 襲 げき 撃はしてこない。 せつ 斥 こう 候か かん 監 し 視目的とも考えたが、他の レギオンを呼び寄せるでもなくひたすら たん 単 き 騎で後方を追従してい る。 ま 待ち ぶ 伏せようにもこちらが止まると向こうもその間足を止める し、おそらく引き返してもそれは同じだ。 ジャガーノートの兵装は直接照準を主としているために射程が短 く、目視 けん 圏 ない 内しか こう 攻 げき 撃できない。地平線の向こうに かく 隠れるレギオ ンにはこちらからは打つ手はなく、 し 仕 か 掛けてくる様子もないから ライデン達には話していないが。 声の通り方からして羊飼い。 き 奇 みよう 妙に ひそ 潜められて言葉そのものは 聞き取れないが、どこかで聞き覚えのある声にも思える。 あれは、どこで──……? † 死ぬべき時に死ねないのは、つくづく因果だな。 せい 制 ぎよ 御のおぼつかない体をひきずりながら、 ほう 崩 かい 壊寸前の流体マイク ロマシンの しん 神 けい 経 もう 網でレイは思う。 レギオンのミッションレコーダのデータファイルは、 せん 戦 とう 闘データ の保存と集約のため、 げき 撃 は 破された場合直近の りよう 僚 き 機に転送 れが羊飼いの場合には、 ちゆう 中 すう 枢処理系の構造図ごと、用意された予 備機に。 同じ人間を材料とした黒羊が無数に存在し得るのに対し、羊 飼いは必ず一機しか存在しない。 人格を持つ羊飼いは、自分と全く同じ存在が別の個体として在 ることに た 耐えられないからだ。けれど処理装置としてより高性能の 羊飼いを一度の げき 撃 は 破で失うことをレギオンはよしとせず、保険 としてこうして、予備機と特別な転送システムが用意されている。 とはいえ実のところ、全く役に立つ仕組みではないなとレイは思 う。 げき 撃 は 破される しゆん 瞬 かん 間に、今まさに は 破 かい 壊されつつあるデータファイルを 転送するなどほとんど不可能だ。 たい 大 がい 概は転送すらされないだろう し、仮にできたところでまともに予備機が動くものか。 実際、成形 さく 炸 やく 薬 だん 弾のメタルジェットに き 切り さ 裂かれ、焼け落ちなが ら転送されたレイのデータファイルは、 かろ 辛うじて転送完了はしたも のの、その時点ですでに ほう 崩 かい 壊寸前の ひど 酷い状態だった。 長くは保たない。 それと知って、だからこそ、支配域を進むシンの みち 道 ゆき 行に追従し た。見つからぬよう きよ 距 り 離を置いて、……行き着く果てを見届けるた めに。 きし 軋みながら進む、予備の古い ディノザウリア 重戦車型の機体。 自分はやはり、ショーレイ・ノウゼンの たましい 魂 というべきものなのか も知れないなと、 時を経るごとに じ 自 かい 壊していくほどぼろぼろのデータファイルなの に、最後の戦場の き 記 おく 憶は な 何 ぜ 故か全てある。 せん 戦 とう 闘機械の本能にあてら れ、守ることと殺すことをはき ちが 違えた自分の きよう 狂 き 気を。 かば 庇うように立 ちはだかった白銀色の少女の まぼろし 幻 を。 いく 幾 ど 度も命を うば 奪おうとした自分 を、それでも最後に兄と呼んでくれた声を、まだ、レイは覚えてい る。 無数のレギオンがひしめく支配域を、シンと仲間達は交戦を さ 避 け、部隊の かん 間 げき 隙を ぬ 縫うようにして進んでいく。 それでいい、とレイは思う。望みもしなかった戦いではなく、一 歩でも長く先に進むことを考えていれば。進んだ先には れん 連 ぽう 邦があ る。 こ 孤 りつ 立しながらも か 果 かん 敢にレギオンと戦う、人類最大の せい 生 ぞん 存 けん 圏 が。 れん 連 ぽう 邦まで たど 辿り つ 着けば、シン達はきっと、保護してもらえる。 共和国に比べれば、 れん 連 ぽう 邦の軍人達は きわ 極めてまともだ。色の ちが 違う兵 士同士、共に戦う仲間を決して見捨てず、それが死体だろうと置き 去りにはしない。 死地から に 逃げ こ 込んできた、子供ばかり五人── む 無 げ 碍には あつか 扱うまい。 見届ける頃には、自分は消えているだろう。その方がいい。今は ひととき正気を保っているが、いずれ自分はまた くる 狂う。望みも願い も全て『殺すため』にすりかわり、……そうして、再び呼んでしま うだろうから。 呼んだらまた、探しに来てしまうだろう。身勝手に殺して身勝手 に死んだ おろ 愚かな兄を見捨てられず、五年にも わた 亘り戦場の じ 地 ごく 獄を さ ま よ 彷徨 い ある 歩いた、あの やさ 優し ごめんな。今度こそ、ちゃんと ゆ 逝くから。 最後に見届けることだけは ゆる 赦してくれと、 いの 祈るような足取りで ディノザウリア 重戦車型は進む。 † 『──アンジュ。そろそろ代わろう』 パ ラ レ イ ド 知覚同調越しに とう 唐 とつ 突にシンが言った言葉に、アンダーテイカー を操縦していたアンジュは まばた 瞬く。ファイドと彼女達の相棒と別れ て、ようやく二日目。秋の せい 清 れつ 冽な こ 木 も 漏れ び 日も さわ 爽やかな、落葉と かえで 楓の 種が ま 舞う紅葉の森の中だ。 「まだ早くない? 午前の担当は、お昼の きゆう 休 けい 憩までだったでし ょ?」 『 あ 飽きた』 たん 端 てき 的かつ身も ふた 蓋もない返答に思わず苦笑する。確かに、あまり雑 談をする た 性 ち 質でもなし、することもなく景色を なが 眺めているのもさぞ たい 退 くつ 屈なのだろうが。 「こんなにのんびりできるなら、シン君は読む本の一冊くらい持っ てきても良かったかしらね」 苦笑したままアンジュは、開閉レバーに手を の 伸ばす。 † れんぽう ほうかい シン達は順調に れん 連 ぽう 邦へと近づいていて、 ほう 崩 かい 壊が進んですっかり にぶ 鈍 い思考で、レイは あん 安 ど 堵する。 このまま行けばじきに れん 連 ぽう 邦 ぐん 軍の しよう 哨 かい 戒 せん 線に たど 辿りつくだろう。 しよう 哨 かい 戒 せん 線 のレギオン達は れん 連 ぽう 邦との せん 戦 とう 闘に戦力と注意の全てを注いでいる。 けい 警 かい 戒の うす 薄い後背から しの 忍び よ 寄るちっぽけな機動兵器一機、地勢に かく 隠れ ていればすり ぬ 抜けるのは決して不可能ではない。 レイの方は じ 自 かい 壊が先か、 たど 辿りつくのを見届けるのが先かももはや あや 怪しいところだが……まあ、多分 だい 大 じよう 丈 ぶ 夫だと、安心して ゆ 逝くことに しよう。 ──ん。 かろ 辛うじて つな 繫がっているデータリンクに、 きん 近 りん 隣の友軍部隊の情報が 表示される。知覚したその内容に、レイは ぎ 擬 じ 似 しん 神 けい 経 もう 網を焼く しよう 焦 そう 燥を 覚えて立ちすくんだ。 まずいッ……! † ほとんど がけ 崖に近い しゆん 峻 けん 嶮な こう 勾 ばい 配の下を回りこむ けもの 獣 みち 道で、不意にア ンダーテイカーは足を停めて、コンテナに自機から持ち出した毛 布を し 敷いて ね 寝 ころ 転がっていたライデンは身を起こす。 「どうした、シン?」 たん 淡 たん 々とシンが口を開く。それはいつもの へい 平 たん 淡な こわ 声 ね 音だったが、同 時に静かな かく 覚 ご 悟の ひび 響きを帯びていた。 『──乗ってる やつ 奴が戦う。そういう決まりだったな』 しゆん 瞬 かん 間 さと 悟った。 「お前! 気づいてた ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ な!?」 どう進んでも交戦を かい 回 ひ 避できないレギオンに。……おそらく は、アンジュに交代を告げたあの時 すで 既に! 総毛立つように げつ 激 こう 昂したアンジュがコンテナを飛び降りる。 「ずるいわ、シン君! ──こんなのってない!」 つ 詰め よ 寄ろうとした、その眼前でシンは けん 牽 いん 引 よう 用のワイヤーをパージ した。勢いよく はじ 弾け と 飛んだワイヤーに とつ 咄 さ 嗟にアンジュは身を すく 竦め、 その すき 隙にアンダーテイカーはわずかな段差を あし 足 が 掛かりに一息に しや 斜 めん 面の上へ か 駆け のぼ 登る。 がけ 崖に近い、人間では登るのも難しい こう 勾 ばい 配の上。 う 迂 かい 回路も見る限り近くにはない、おそらくはそのつもりで選んだ進 路。 ひび 罅の入った あか 紅い光学センサが、こちらを向いた。 かく 格 とう 闘アームは両 方とも失い、 そう 装 こう 甲は や 焼け こ 焦げ、 く 駆 どう 動 けい 系にもガタのきている満身 そう 創 い 痍 のジャガーノート。 『お前達は、このまま進め。森の中ならそうそう見つからない。 ……しばらく進むとレギオンの声が消える ﹅ ﹅ ﹅ 。人が残っているな ら、可能ならそいつらに保護を求めろ』 かつて、八六区の戦場でも聞いた話だ。 そして見つからないのもそれはそうだ。 じ 自 じん 陣 ない 内に敵機が──アン ダーテイカーがいる限り、一帯のレギオンの注意はそちらに向 く。その分他への けい 警 あるいはそれさえも、計算の上で。 「ふざけないでよ! それってシンが おとり 囮になるってそういうことだ ろ!?」 「みんな いつ一 しよ 緒に行くんでしょ!? 最後の最後に一人で行くなんてそ んなの──」 セオの怒号も なみだ 涙 ごえ 声でクレナが さけ 叫びかけた言葉も聞かず、 パ ラ レ イ ド 知覚同調 さえ た 断ち き 切って、アンダーテイカーが りよく 緑 いん 陰の向こうに消える。 ライデンは思い切りコンテナを なぐ 殴りつけた。 「くそッ……!」 会敵した時に乗っている やつ 奴がレギオンと戦う。最後の せん 戦 とう 闘を だれ 誰 が担当することにしても他の やつ 奴は なつ 納 とく 得しないから、運任せにして公 平を図ったつもりの取り決めだったが、甘かった。 はる 遥か遠くのレ ギオンまで感知できるシンにとっては、 かい 回 ひ 避できない敵機の存在 を にん 認 しき 識した場合、 だれ 誰が死ぬかを あん 暗 もく 黙の うち 裡に選ぶことになる。 さ 避けるには、自分が戦うしかない。 「あの、 ば 馬 か 鹿が……!」 かたわ 傍らのアサルトライフルを つか 摑み、ライデンは立ち上がる。 † しよう 哨 かい 戒スケジュールの消化中、 とつ 突 じよ 如、 ア 所 ン 属 ノ 不 ウ 明 ン 機からの きゆう 急 しゆう 襲を受 けたレギオン しよう 哨 かい 戒中隊は I F F 敵味方識別の情報を そく 即 ざ 座に リ 書 ラ き イ 換 ト え、 エンゲージ 会 敵を戦術データリンクに報告すると同時に応戦を開始した。 き こう セ オ リ ー ほうげき き 機 こう 甲兵器の セ 常 オ 套 リ 戦 ー術をまるで無視し、不意打ちの ほう 砲 げき 撃で レ ー ヴ ェ 戦車型一 機を げき 撃 は 破するなり戦列のただなかにつっこんできたその敵性機は彼 らの固有データには記録がなかったが、照合した広域ネットワーク のデータベースに がい 該 とう 当する機種があった。サンマグノリア共和国の 主力兵器、識別名ジャガーノート。 きよう 脅 い 威 ど 度は低、 き 機 こう 甲兵器に分類 するには そう 装 こう 甲も火力も足りない、 そう 装 こう 甲歩兵相当の兵種だ。 まして土地の き 起 ふく 伏と障害の少ない平原での せん 戦 とう 闘で、 あつ 圧 とう 倒 てき 的な火力 と けん 堅 ご 固 きわ 極まる そう 装 こう 甲を備えた レ ー ヴ ェ 戦車型に たい 対 こう 抗可能な陸戦兵器などない。 そのはずだったが、このジャガーノートはその想定を上回る せん 戦 とう 闘能力を発揮した。乱戦に持ち込むことで レ ー ヴ ェ 戦車型の分厚い そう 装 こう 甲を他 のレギオンの ほう 砲 げき 撃への たて 楯とし、 ゼロ 零 きよ 距 り 離まで間合いを つ 詰めて低い火 力をカバーしている。 近接戦仕様のジャガーノート──ただし通常仕様との ス 性 ペ 能 ッ 諸 ク 元 上の差異はなく、異なるのは ゆい 唯 いつ一、 ちゆう 中 すう 枢処理系の性能のみと推定さ れる。 ちよく 直 えい 衛の レ ー ヴ ェ 戦車型四機が げき 撃 は 破。中隊戦力の四五パーセントを そん 損 もう 耗。 それでも機械 じ 仕 か 掛けの ま 魔 もの 物達は か け ら 欠片の しよう 焦 そう 燥も覚えない。 きよう 脅 い 威 ど 度を リライト 変更。 れん 連 ぽう 邦主力フェルドレス、識別名ヴァナルガンドと同等と判 定。現行戦力での確実な制圧は不可。本隊及び周辺部隊に えん 援 ご 護を よう 要 せい 請。 特記 じ 事 こう 項──鹵獲を推奨 ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ 。 コンマ数秒で広域ネットワークへの報告と よう 要 せい 請を完了させ、再び † ……敵の動きが変わった。 四機目の レ ー ヴ ェ 戦車型を げき 撃 は 破したところで とつ 突 じよ 如、変化したレギオン達 の展開パターンに、シンは周囲に視線と意識を走らせる。 包囲、といっても友軍誤射を さ 避けるため、部隊も機体も たが 互いの火 線に重ならないように配するのが定石だ。必要ならば ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅りよう 僚 き 機ごとこち らを ほう 砲 げき 撃することも た め ら 躊躇わないレギオンとてそれは同じ──けれ ど たい 対 じ 峙したレギオン達は、友軍機の射線に入ることも構わずこち らの退路を ふさ 塞ぎにかかっている。 足止め。その判断を後押しするように、 きん 近 りん 隣のレギオン集団が 動き始めるのをその異能が とら 捉える。最も近い集団──おそらくはこの しよう 哨 かい 戒部隊の本隊──との きよ 距 り 離はおよそ八〇○○。 レ ー ヴ ェ 戦車型の じゆん 巡 こう 航速度な らば、一分足らずでこちらを射程に収められる。 合流されると さ す が 流石にまずい。 とつ 突 かん 貫してきた グ ラ ウ ヴ ォ ル フ 近接猟兵型の ざん 斬 げき 撃を かわ 躱 しざまに応射を く 喰らわせ、それによって いつ一 しゆん 瞬空いた かん 間 げき 隙を ごう 強 いん 引に とつ 突 ぱ 破した。 そう 装 こう 甲を さつ 擦 か 過した じゆう 重 き 機 かん 関 じゆう 銃 だん 弾が金切り声をあげて飛び過 ぎ、機体ステータス上の左後部の きやく 脚 ぶ 部関節に許容 はん 範 い 囲を超える ふ 負 か 荷 の ア 警 ラ 告 ー表 ト 示が灯る。 レギオンの ねら 狙いは。 思い至ってわずかに苦く、目を すが 眇めた。 黒羊、あるいは羊飼い。戦死者の脳構造を取りこんだ、亡霊 つ 憑 きのレギオン達──。 けれどプロセッサーではおそらく最長クラスの戦歴を持つシンで さえ、それ ﹅ ﹅ のことは念頭に置いていなかった。 無理もない。 そう 遭 ぐう 遇したのは一度きり、群れの中に ひそ 潜んでいる間は 見分けもつかない。 何より、かつてシン自身が口にしたとおり、それ ﹅ ﹅ の本来の役割は 面制圧か固定目標の は 破 かい 壊、たかだか機動兵器一機 ごと 如きを ねら 狙い う 撃つた めに、使われるものではないのだから。 向けられた目を、知覚した。 遠く、 ス 長 コ 距 ル 離 ピ 砲 オ 兵 ン 型の ほう 砲 し 支 えん 援さえも届かない はる 遥かな遠くから。 きよう 狂 ねつ 熱に い 凍てついた こく 黒 とう 瞳を げん 幻 し 視するほどの── きよう 強 れつ 烈な悪意の。 『殺してやる』 似た言葉のせいか、 う 討ち は 果たしたはずの兄の声に、 き 奇 みよう 妙なまでに 似通った こわ 声 ね 音だった。 殺された夜の光景がフラッシュバックする。 やみ 闇 くも 雲な きよう 恐 ふ 怖が、 そう 操 じゆう 縦 かん 桿を にぎ 握る手を こお 凍りつかせた。 殺してやる。 だん 断 ぺん 片 てき 的なイメージが流れ込む。自分のものではない き 記 おく 憶。 パ ラ レ イ ド 知覚同調が、あるいはかつての自分の異能が、 だれ 誰かと つな 繫がる時に かい 垣 ま 間 み 見せるような。 どんてん はいきよ いしだたみ どん 曇 てん 天。 はい 廃 きよ 墟。割れた いし 石 だたみ 畳。灰色をしたそれら背景に せん 鮮 れつ 烈に う 浮か ぶ、── こう 絞 しゆ 首の罪人のように つる 吊し あ 上げられた、血に染まった しん 深 く 紅の、 子供のマント。 殺してやる。 男も女も子供も年寄りも貴族も ひん 貧 みん 民も。……を害する者は全て。 何もかも全て殺してやる……! 知った声だった。 共和国の、八六区の。スピアヘッド戦隊として戦った第一戦区の 戦場で。 その戦闘で四人が死んだ。レーダーの たん 探 ち 知 はん 範 い 囲の はる 遥か外から、 いち一 げき 撃でジャガーノートを文字通り消し飛ばした、あの──。 「っ……!」 とつ 咄 さ 嗟にアンダーテイカーを と 跳び すさ 退らせたのは、 つちか 培われた戦士の 本能か、それとも一度 そう 遭 ぐう 遇した時の経験だったか。 レーダーに警告、同時に ちやく 着 だん 弾。 初速毎秒四〇〇〇メートルの超高速と、おそらく数トンにもなる 大質量がもたらす ばく 莫 だい 大な運動エネルギーを まと 纏い、 ほう 砲 だん 弾の ごう 豪 う 雨がレ ギオン偵察部隊の巻き添えも構わず戦場一帯に降り注ぐ。 いつ一 しゆん 瞬無音と感じるほどの だい 大 おん 音 きよう 響と、視界を白く染めあげる げき 激 れつ 烈な せん 閃 こう 光。 ふ 吹き あ 荒れた もう 猛 れつ 烈な しよう 衝 げき 撃 は 波と ま 撒き ち 散らされる高速の ほう 砲 だん 弾 へん 片が がん 頑 きよう 強な レギオンの そう 装 こう 甲をへし折り、 ひ 引き さ 裂き、吹き飛ばして か 駆け ぬ 抜け はし しようげき は ぼうだい ど る。地中を はし 疾った しよう 衝 げき 撃 は 波が同心円状に ぼう 膨 だい 大な ど 土 しや 砂を えぐ 抉り飛ばし、 いん 隕 せき 石の落下じみたクレーターを大地に深々と刻み付ける。 平らかな秋の かれ 枯 の 野が── いつ一 しゆん 瞬で きよ 巨 だい 大な くぼ 窪 ち 地と化した。 耳を ろう 聾する ごう 轟 おん 音と ぼう 暴 ふう 風の ふ 吹き あ 荒れる中、アンダーテイカーは かろ 辛 うじて ほう 砲 だん 弾の こう 効 りよく 力 けん 圏を のが 逃れた。とはいえ さ す が 流石に無傷とはいかない。 コクピットに飛び込んだ は 破 へん 片にやられてメインスクリーンがダウ ン。ジャイロと れい 冷 きやく 却 けい 系の表示が計器から消え、ホロウィンドウが全 て消失する。 く 駆 どう 動 けい 系と火器が無事なだけマシだ。まだ敵は残っている。ほとん ど無意識に片手でダメージコントロールをこなしつつ、役に立たな いメインスクリーンは無視して敵機の位置を さぐ 探り──。 その時、立て続けに限界以上の ふ 負 か 荷を強いられた ひだり 左 こう 後 きやく 脚が、関節 部から折れ飛んだ。 「!」 残った あし 脚を支えに かろ 辛うじて てん 転 とう 倒は まぬか 免れた。けれどそれだけだ。た だでさえ機体重量に比して重い ほう 砲をマウントして後方に重心の かたよ 偏っ たジャガーノートは、後ろ足のどちらかを失うと全く歩けなくな る。 もう ずい 随 ぶん 分昔に思える、老整備クルーの なつ 懐かしい ど 怒 せい 声が、耳の おく 奥に よみがえ 蘇 った。 ──足回り弱ぇんだから無茶すんなって毎度毎度言ってんだろう ──いつか死ぬぞあんな無茶な戦い方しやがって! ここにきて、か。 ふ 噴き あ 上がった ど 土 しや 砂と すな 砂 けむり 煙の とばり 帳を ひ 引き さ 裂いて、 きやく 脚 ぶ 部の半分を そう 喪 しつ 失し ながら とつ 突 しん 進してきた レ ー ヴ ェ 戦車型が おど 躍り で 出る。 ふ 振り あ 上げられる さい 最 ぜん 前 きやく 脚をなす術もなく見上げ──シンは かす 微かに、 ば 場 ちが 違いな苦笑を う 浮かべた。 機体の は 破 へん 片を ま 撒き ち 散らして、アンダーテイカーが吹き飛ばされ る。 何とか登れそうな場所を探して しや 斜 めん 面を は 這い のぼ 登り、 ほう 砲 げき 撃 おん 音を追って 森を出たライデン達が見たのはそれだった。 ライデンでさえ初めて見る、彼らの死神の敗北の しゆん 瞬 かん 間だった。 生存本能が悲鳴を上げた。── レ ー ヴ ェ 戦車型を相手に、生身の自分達が かな 敵 うわけがない。 理性が必死に引き留めた。──ここで出ていったら、シンは文字通 り む 無 だ 駄 じ 死にだ。 クソ く 喰らえ。 た 立ち つ 尽くしたのは いつ一 しゆん 瞬、 はじ 弾かれたように飛び出す仲間達の足音を 聞きながら、ライデンは森を か 駆け だ 出した。 じゆう アサルトライフルの じゆう 銃 せい 声がする。 聞き覚えた するど 鋭いその音に、シンは重い まぶた 瞼を かろ 辛うじて持ち上げた。 全ての光学スクリーンと計器が死んで暗い、 よこ 横 だお 倒しになったジャ ガーノートのコクピットの中。 息をするのが つら 辛い。肺の おく 奥が焼けつくようで、吐く息は かす 微かに血 の にお 臭いがした。 あふ 溢れて伝う血の かん 感 しよく 触はどこにもないのに ひど 酷く寒く て、体の中 ﹅ ﹅ ﹅ をやられたなと ひ 他 と 人 ごと 事のように思った。 まだ生きているのだから動くべきだったが、せめて けい 携 こう 行の けん 拳 じゆう 銃を ぬ 抜いて自分の始末 ﹅ ﹅ をつけるくらいはするべきだったが、指一本動か せなかった。 うす 薄っぺらな そう 装 こう 甲の向こうで、置き去りにしたはずの仲間達の ど 怒 ごう 号 と じゆう 銃 せい 声が ひび 響いている。 ば 馬 か 鹿だな、と思う反面、おそらく同じことを考えた結果が今の自 分のこの様なのだから、あながち彼らばかりを笑えもしない。 この無意味で ば 馬 か 鹿げた とう 闘 そう 争の果てにはあるいは ふ さ わ 相応しい──無意味 で、 ば 馬 か 鹿げていて、それでもせめてかく在らんと望んだ終わり方。 ふ、と再び、 かす 微かな、 ば 場 ちが 違いな苦笑が う 浮かんだ。 兄は う 討ち は 果たし、思いの外に長い道のりを進めて、思い残すこと などもう何もないはずなのに、……それでもやはりこういう時に は、死にたくないと思ってしまうものらしい。 死んで、自分もレギオンになるのだろうか。 レギオンと化した自分は── だれ 誰の名前を呼ぶのだろうか。 思い出そうにも顔さえ知らないのが、少しだけ、心残りだった。 ど ごう じゆうせ ど 怒 ごう 号と じゆう 銃 せい 声が とう 唐 とつ 突に消える。 ぼう 亡 れい 霊の声を聞く異能がこの ご 期に及んで、キャノピを ひ 引き は 剝がすま でに接近したレギオンの存在を彼に伝える。 ──タングステンの だん 弾 しん 芯が分厚い そう 装 こう 甲を無理矢理ぶち ぬ 抜く、金属の 悲鳴。 それを最後に、シンの意識は やみ 闇に しず 沈んだ。 † 五体の敵性体の ちん 沈 もく 黙と無力化を確認し、 ゆい 唯 いつ一生き残ったその レ ー ヴ ェ 戦車型は戦域ネットワークに じよう 状 きよう 況終了を報告する。 あわせて火力 し 支 えん 援を実行した『試作機』の再調整を よう 要 せい 請した。 ろ 鹵 かく 獲を すい 推 しよう 奨と伝達したにも関わらず げき 撃 は 破を目的に ほう 砲 げき 撃を じつ 実 し 施し、敵性 フェルドレス一機のために友軍部隊一個を損失させるようでは、ま だ ちゆう 中 すう 枢処理系の判断能力に不安があると判断せざるを得ない。 よう 要 せい 請を送信し、 かく 擱 ざ 座したジャガーノートに光学センサを向け る。 他の四体を ふく 含め、生命活動が停止するほど は 破 かい 壊はしていない。敵 性体の ちゆう 中 すう 枢処理系は ぜい 脆 じやく 弱で、取り出してスキャンをかけると組織が ほう 崩 かい 壊してしまうのはまだしも、生命活動を停止させるなり れつ 劣 か 化が始 まってしまうから、可能な限り生かして ろ 鹵 かく 獲しないといけない。 この、ジャガーノートに とう 搭 じよう 乗 ス 性 ペ 能 ッ 諸 ク 元上の不利を くつがえ 覆 す、高性能の処理系だ。友軍機に適用すれ ば、さぞ、 さら 更なる戦果拡大に こう 貢 けん 献することだろう。 レ ー ヴ ェ 戦車型を ふく 含めた せん 戦 とう 闘 がた 型のレギオンに物資 うん 運 ぱん 搬機能はない。近在 の ヴ 自 ァ 動 イ 工 ゼ 場 ル 型まで うん 運 ぱん 搬するため、 タウゼントフュスラー 回収輸送型の は 派 けん 遣を戦略ネットワ ークに よう 要 せい 請しようとして。 急接近する友軍機の レ ス ポ ン ド 応答信号が、 I F F 敵味方識別に返ったのはその時 だった。 せん 戦 とう 闘部隊未所属の ディノザウリア 重戦車型。 ほう 砲 せい 声を検知したものか──。 ごう 轟 おん 音。 ほう 砲 とう 塔正面なら同じ レ ー ヴ ェ 戦車型の しゆ 主 ほう 砲の ゼロ 零 きよ 距 り 離 しや 射 げき 撃をも はじ 弾く六五〇ミリ あつ 圧 えん 延 こう 鋼 はん 板相当の複合 そう 装 こう 甲が、一五五ミリ A P F S D S 高速徹甲弾の ちよく 直 げき 撃に むな 虚しく かん 貫 てつ 徹された。 ディノザウリア 重戦車型の ほう 砲 げき 撃。 きよう 恐 ふ 怖も きよう 驚 がく 愕も知らない自動機械だったが、その 事態を は 把 あく 握するには時間を要した。彼らには本来、ありえないこと だったからだ。 フレンドリ・ファイア 友 軍 誤 射──否、 I F F 敵味方識別には たが 互いに応答を返した。友軍機と にん 認 しき 識しながら ほう 砲 げき 撃した、つまりは、敵だ。 旧式のタングステン だん 弾 しん 芯の A P F S D S 高速徹甲弾だったのは幸運だった。 H E A T 成形炸薬弾だったら、あるいは れつ 劣 か 化ウラン だん 弾 しん 芯の てつ 徹 こう 甲 だん 弾だったら機 体内部を焼かれて いち一 げき 撃で げき 撃 は 破されているところだ。 I F F 敵味方識別の情 報を リライト 更新、敵性機として登録。戦術データリンクに エンゲージ 会 敵を報告し、 対処を──。 に 二 げき 撃 め 目。 たた ほうげき 第一射からほとんど連続して たた 叩きこまれた ほう 砲 げき 撃に、 かろ 辛うじて無事 だった ちゆう 中 すう 枢処理系が根こそぎ ひ 引き さ 裂かれて は 破 かい 壊される。 ゆう 誘 ばく 爆で ばく 爆 はつ 発四散させないよう──すぐ近くにいるジャガーノー トに万一にも ひ 被 がい 害が及ばないよう、 ディノザウリア 重戦車型は H E A T 成形炸薬弾ではな く A P F S D S 高速徹甲弾を使ったのだと、 くずお 頽れる レ ー ヴ ェ 戦車型に理解できるはずもな く。 割れた光学センサに、銀色のマイクロマシンの『手』を生やした 異形の ディノザウリア 重戦車型の姿を映し──その レ ー ヴ ェ 戦車型は機能を停止した。 † 夢を見た。 夢の中でシンは小さな子供で、気がつくと だれ 誰かに だ 抱き あ 上げられて 運ばれていた。その人以外の だれ 誰も、何も見えない む 無 みよう 明の やみ 闇。機械 じ 仕 か 掛けの ぼう 亡 れい 霊達の声の向こうに常に感じる、意識の底の、 たましい 魂 の底の やみ 闇 の おく 奥。 視線を上げると、兄だ。 覚えているよりも ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ いく 幾らか年上の二十歳過ぎの、……おそらくは、 死んだ時の。 「お兄ちゃん……?」 レイが笑う。 なつ 懐かしい、 やさ 優しいその笑み。 「起きたか」 足を止めてよいしょ、と かが 屈んで下ろされる。幼い体は頭が大きく てバランスが悪い。少しよたつきながらもなんとか立って、もう一 度見上げる。 しゃがんだ姿勢のまま目を合わせてレイが言う。それでもまだレ イの方が少しだけ目線が高い。 「おれはここまで。ここから先は、自分で行けるよな。 いつ一 しよ 緒に行く 仲間もいるし、」 言いながら、レイは立ち上がる。 少し見上げる、そのわずかな距離が──兄は立ち上がったのに、変 わらない。 「こんなに大きくなったんだものな」 は、と自分の体を見下ろして、シンは自分が本来の十六歳の姿に もど 戻っていることに気づく。 兄さん、と言おうとして、声が出なかった。 ぼう 亡 れい 霊とは──死んだ者とは、本当は言葉など交わせないものだか ら。 言葉もなく見上げるばかりのシンを見返して、ふとレイは痛みを こら 堪える顔になった。 首の きず 傷 あと 痕に、レイの手が ふ 触れる。あの夜と同じ、あの戦場と同 じ、兄の大きな手。 「ごめんな。痛かったよな。……おれが死にきれなくてずっと呼ん でたせいで、こんなところまで来させたんだよな」 ちが ふ ちが 違う、と答えたかった。せめて首を ふ 振りたかった。でもどちら も、体が動かなくてできなかった。 痛くなかったと言ったら うそ 噓だ。向けられた ぞう 憎 お 悪が痛かった。お前 の SIN 罪だと さけ 叫び続ける声に、毎晩、殺された夜の夢を見た。耳を ふさ 塞ぐ こともできない ぜつ 絶 きよう 叫に常に──常に、 さい 最 ご 期まで ゆる 赦してはくれなかっ たと思い知らされ続けるのは つら 辛かった。 それでも、いてくれたからここまで来られた。 レギオンとの果て無き し 死 とう 闘も、無意味な死を定められた戦場の 日々も、部隊の仲間が ぜん 全 めつ 滅した夜の こ 孤 どく 独も、兄を う 討つという目的が あるから た 耐えられた。 そうでなければとうの昔に、 ど 何 こ 処かで折れて たお 斃れていた。 いてくれたから。死してなおも、向かう先に、待っていてくれた から。 本当は言いたかったことが たく 沢 さん 山あるのに──どうしても、言葉が出 ない。 「もう、おれになんて とら 囚われてなくていい。おれのことなんか忘れ ていいから」 いやだ。 「ああ……いや、やっぱり時々は思い出してほしいかな。これから 先、お前がちゃんとお前の人生を生きて、自由に生きて、幸せにな って、長いその と 途 ちゆう 中で、時々さ」 兄さん。 レイが笑 「今度は、待たないから。……だって、待ちくたびれちまうもの な。お前にはこれから、長い時間があるんだから……。元気で。ど うか、幸せにな」 手が、 はな 離れる。 きびす 踵を返し、 やみ 闇の おく 奥へと歩み去っていく。 父が、母が、共に戦った たく 沢 さん 山の仲間達が、 すべ 滑り お 落ちていった先。 そっちに行ったら、二度と もど 戻れない。 二度と会えない。 不意に体を こお 凍りつかせていた じゆ 呪 ばく 縛が解けた。 「兄さん、」 けれど の 伸ばした手はまたしても届かない。あるいは声さえも聞こ えていない。 生者と死者の境を厳然と へだ 隔てる何かが目の前に在って、兄を追う ためのただ一歩が進めない。 「兄さん!」 ふ 振り かえ 返ったレイが わ 微 ら 笑ったまま、 やみ 闇の底に と 溶けて消える。 それはあの し 死 とう 闘の果て──届かなかった手の先で はかな 儚く消えた、 やさ 優し い兄の手と同じように。 もう間に合わないと、知りながらそれでも手を の 伸ばした。 「兄さん」 自分の声で、目が さ 醒めた。 照明の落とされた無機質な天井をしばし見上げて、シンは しよう 焦 てん 点の 定まりきらない血赤の ひとみ 瞳を まばた 瞬かせる。 見覚えのない、真っ白な天井。四方を囲むこれも白い冷たい かべ 壁 に、規則的な電子音を立てるモニタ機器ときつい消毒薬の にお 臭い。 ごく小さな部屋の清潔なベッドに ね 寝かされて、モニタ機器のコー ドと てん 点 てき 滴の管が自分の体に つな 繫がっている。病室だ、とは、幼い ころ 頃に 強制収容所に かく 隔 り 離され、まともな い 医 りよう 療を受けた経験のほとんどない シンには連想できない。 つん、と鼻の おく 奥がきな くさ 臭くなって、左手で目元を おお 覆った。 わ 湧き あ 上がったのは深い あん 安 ど 堵と、 な 何 ぜ 故か同じくらい強い そう 喪 しつ 失 かん 感で、 あふ 溢れ だ 出したそれら感情の か け ら 欠片に視界が にじ 滲む。 思い出せた。ようやく。 本当は──失いたくなんてなかった。 ひだり 左 うで 腕には てん 点 てき 滴の管の他に何かのセンサがつけられていて、動かし たことでアラームが鳴った。警告というよりモニタしている対象の かく 覚 せい 醒を知らせるための、 きん 緊 ぱく 迫 かん 感の うす 薄いそれ。 ベッドの足元側の かべ 壁の白い しき 色 さい 彩が分解して消えて、 とう 透 めい 明になった その向こうに、スーツ姿の そう 壮 ねん 年男性が顔をのぞかせた。 ぎん 銀 ぶち 縁の度の強い丸眼鏡をかけて しら 白 が 髪交じりの くろ 黒 かみ 髪の、どこか うき 浮 よ 世 ばな 離れした せき 碩 がく 学 ふう 風の よう 容 ぼう 貌の ジ ェ ッ ト 黒珀種の男だ。後ろには看護師と、室内と 同じく無機室な通路が見えて、今 とう 透 か 過した『 かべ 壁』がこの部屋の入口 の とびら 扉であるらしい。同じ とびら 扉が通路を はさ 挟んだ向かい側にもあるよう で、通路の両側に同じ白い せま 狭い部屋が並んでいると予測がついた。 『……気がついたかな』 忘れてしまった だれ 誰かを思い起こさせる、 おだ 穏やかな声だった。 何か、何だかは自分でもわからないが聞くべき何かを問おうとし て、声が出なかった。不意に おそ 襲ってきた痛みに うめ 呻いたシンに、後ろ に ひか 控える看護師が まゆ 眉を ひそ 顰める。 『閣下。意識が もど 戻ったばかりですし、手術の えい 影 きよう 響で発熱もしていま す。あまり無理は……』 『わかっているよ。少し、話をするだけだ』 おだ 穏やかな笑みで看護師を下がらせて、男は とびら 扉に右手を ふ 触れた。 軍人の手だ、とぼんやりする頭でシンは思う。 じゆう 銃を あつか 扱い な 慣れた者 の かた 硬い、厚い てのひら 掌 。薬指に は 嵌めたくすんだシンプルな銀の指輪が、 みよう 妙に印象に残った。 『こんにちは、君。……まずは、君の名前を教えてくれるかな』 本来ならば考えるまでもない問いだったが、 き 記 おく 憶の中から答えを 探しだすのにシンは非常な時間を要した。思考がまとまらない。 ま 麻 すい 酔の えい 影 きよう 響だとわかるほどには、彼は自分のおかれた じよう 状 きよう 況を理解で きていない。 以前── だれ 誰かに同じように名を告げた時の き 記 おく 憶の だん 断 ぺん 片が のう 脳 り 裏を かす 掠め て、まともに考えられない頭でそれをそのまま口にした。 見たこともないはずの長い はく 白 ぎん 銀の髪の幻影が、 まぶた 瞼の裏を かす 掠めた気 がした。 「シンエイ……ノウゼン」 男は一つ うなず 頷いた。 ぼく れんぽう ざんてい 「 ぼく 僕はエルンスト・ツィマーマン。共和制ギアーデ れん 連 ぽう 邦の、 ざん 暫 てい 定大 統領だよ」 † その日、連邦国営放送の報道番組が、西部戦線の しよう 哨 かい 戒 せん 線 じよう 上で、他 国の軍人らしき少年兵五名が保護されたことを報じた。 前線部隊が げき 撃 は 破した くび 首 が 狩りの ディノザウリア 重戦車型に、 とら 囚われていたとい う。 着ている野戦服と、共に回収された型式不明のフェルドレスのO Sからして、西の りん 隣 ごく 国、サンマグノリア共和国の兵士と推測される という。 れん 連 ぽう 邦市民は わ 沸いた。まだ自分達以外にも、生き残っている国があ る。我々はまだ、独りきりではなかったのだと。 ついで りん 隣 ごく 国の苦境を案じた。 とし 年 は 端もいかない少年兵まで前線に投 入しなければならないほど、共和国は お 追い つ 詰められているのだろう か。 やがて少年達への事情 ちよう 聴 しゆ 取の内容が報道され、彼らが戦場に送り 込まれたその おそ 恐るべき理由が明らかになるにつれ、その心配は いか 怒り に変わった。 一方で少年達については、変わらず同情的な意見が中心を し 占め 祖国に はく 迫 がい 害を受け、それでも戦い、 に 逃げ の 延びてここまで たど 辿りつい た子供達だ。 せめて れん 連 ぽう 邦では へい 平 おん 穏に、幸せに生きさせてやるべきだ。 † 『──と、いうのが君達が我が軍に保護されてからの けい 経 い 緯なんだけ ど。そうなるまでについて、何か覚えているかな』 問われて、答えるために考えることで少しずつ思考力が もど 戻ってき たらしい。 とう 唐 とつ 突に、意識を失うまでの じよう 状 きよう 況が よみがえ 蘇 ってシンは周囲に視線を走 らせる。── だれ 誰もいない。 まさか。 ああ、とエルンストが笑う。 『ごめんごめん。君が眠ってたから とう 透 か 過 りつ 率をゼロにしてたんだけ ど……そうだよね。そりゃあ心配だよね。……ちょっと待って』 ふ 振り かえ 返って看護師に何か言った。左右の かべ 壁の色素が分解して消え る。 とう 透 めい 明 か 化した かべ 壁の向こうにはこの部屋と同じ無機質な小部屋がずら りと並んで、 ひだり 左 どなり 隣から四つの部屋にそれぞれ仲間達が入れられてい た。 りん 隣 しつ 室のライデンが いつ一 しゆん 瞬ほっと息をついて、それから顔をしかめて みせる。 ね 『お前。丸三日 ね 寝てたぞ』 声はやはり、天井のスピーカーから聞こえた。 パ ラ レ イ ド 知覚同調は、と疑念を覚えて不意に気づく。起動できない。首の 後ろ、 レ イ ド デ バ イ ス 擬似神経結晶素子をインプラントされていた場所の かす 微かな とう 疼 つう 痛。プロセッサー自身では外せないはずのイヤーカフも外されてい る。 「……どうして、」 主語も述語もない、 ぎ 疑 もん 問 ふ 符だけの問いだったが理解できたらし い。ライデンは かた 肩をすくめた。 『さあな。俺達も目が さ 醒めたらこの部屋で かん 缶 づめ 詰だ。 ディノザウリア 重戦車型に つか 捕ま ってたとか言われたけど、……いなかったよな、んなもん』 ふと、つい先程までの夢を思い出した。 う 討ち は 果たしたはずの、 ディノザウリア 重戦車型の さい 最 おう 奥に とら 囚われていた兄。 今はもう、本当にどこにもいないと、 な 何 ぜ 故だかわかるけれど。 けれど伝える気にはなれなくて小さく首を ふ 振ると、 と 途 たん 端にひどい め ま い 眩暈に おそ 襲われた。思わず目を閉じたシンに、セオが き 気 づか 遣わしげに まゆ 眉 を寄せる。 『 つら 辛いなら無理しなくていいよ。シン、昨日までは ほ 集 か 中 の 治 へ 療 や 室にい たんだ。もうしばらくは絶対安静だって。……昨日までほんと、ク レナが大泣きして大変だったよ』 『泣いてないもん!』 思いきり な 泣き は 腫らして赤い目をしたクレナの こう 抗 ぎ 議は全員に流され た。 はし 一番 はし 端の個室で、こちらを見やってアンジュが白い花のほころぶ ように たお 嫋やかに ほ ほ え 微笑む。 あれは本気で おこ 怒っている時の顔だなと思い、つい目をそらした。 『シン君? 今は だ 駄 め 目なのはわかってるから、治ったら平手打ちの 一発くらいは かく 覚 ご 悟しておいてね?』 『悪いけど全員同じく。ていうか、次同じ事やったら本気でぶっ飛 ばすからね』 こちらはさらりとセオが続けるから、シンはわずかに顔をしかめ る。 「……別に、死ぬつもりは」 『 おこ 怒るよ。死ぬつもりはなくても、必ず死ぬってわかってただろ』 あのまま おとり 囮としてレギオンを引きつけていれば、いつか機体の そん 損 もう 耗か だん 弾 やく 薬の ふつ 払 てい 底で。 『そりゃさ、みんな一度くらい同じこと考えたよ。でも、だからこ そシンがやったことは許せない。わかるからって、できるからって あれはズルだよ。……二度とやらないで』 『しんぱいしたんだから』 言いながらクレナはまた なみだ 涙ぐんでいる。シンは めい 瞑 もく 目して まくら 枕に身を 預けた。 「──悪かった」 だま 黙って見守っていたエルンストがにこにこと続けた。 『閉じ込める形になっちゃってるのは念のための バイオハザード 生物災害対策で、 悪いようにはしないから安心してくれていい。なにしろ、君達

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